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2019年12月26日木曜日

「扶揺」二次小説 情未央(じょうびおう)5 初めての食事

一章 太渊篇 初めての食事

(画像出典https://images.app.goo.gl/cketBUnJhTC1o9eZA )
「凝珠、今はいつなの?何月何日?何時何分?」
私は内心すがり付くように尋ねた。これが現実だろうと夢だろうと、今疑問に答えてくれるのは彼女しかいないのだ。
私の不安を感じ取ったのか、凝珠は開きかけた口を一旦閉じ、私の目を見て答えた。
「今は刈り取りの月の九日、まだ朝を過ぎたところです」
そこまで言って、彼女は何か思い出したらしい。
「まだ朝餐(あさげ)をお持ちしておりません。何か、召し上がりますか?」
私はそれどころではなかった。刈り取りの月?数字で数えるのではなく?普通なら穀物の収穫は九月もしくは十月だ。昨日十月二十七日だったはずだ。
髪の毛の長さから言えば…
まさか、一年近く記憶を失ったとでも?
「凝珠、私は…昨日からこんなに髪が長いの?私は昏睡していたの?」それなら無理やり説明がつく。
次の返答はその予想を裏切った。
「いいえ、お嬢様は昨日まで…お元気でした」何か躊躇うように口ごもっている。
「嘘ね」曖昧な口調に、思わず口をついた。彼女がはっと顔を上げ、なんとも言えぬ表情を浮かべた。私はそれに息をのんだ。
口に尽くしがたい複雑な感情。悲しみ、切なさ、無力さ、それに…愛しさ。瞳に涙の影を浮かべて、彼女は首を振った。
「いいえ、お嬢様。あなたの御髪(おぐし)は、十二の時から私がおすきしていました。黒くて、綺麗な…琥珀をまとった御髪ですよ」
一瞬、言葉に籠められた愛情に胸が震えた。見も知らない人なのに、まるで…母親のように。
理屈に合わない。私は物心ついてから今まで、厳蒼玲(げんそうりん)として育った。核家族で母親に付きっきりで育てられ、この年まで現代で生きてきた。
この人が言っているのは、私ではない。
それならどうして、水鏡に映っていたのは私の顔だったのだろう。
それ以上口に出せず、私は茫然と黙りこんだ。
 
未知的世界(未知の世界)
それから二日が経った。今日が三日目の朝だ。
あの日、私が口をつぐんでから、凝珠はそっと出て行くと、食事を持って戻ってきた。お盆の中身を見ると、玄米のお粥、青菜の茹でもの、黄色い、恐らく卵で作った小菜が並んでいた。お粥からは湯気が上がり、お米の甘い香りがする。
目の前のお盆から、凝珠に眼を移した。彼女は微笑むと、まるで子供に言うように応えた。
「どんな状態でも、ご飯は食べなければ。身体も動きません」
私は、うん、と頷いた。声が出せなかったのだ。

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