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2019年12月21日土曜日

「扶揺」二次小説 情未央(じょうびおう)9

(画像出典https://images.app.goo.gl/GRE2re7FjTdxbuT37 )
一週間が過ぎた。祈りは叶わず、私は変わらず古代にいた。
毎朝起きるたび、木目の天井に失望する。どうすれば、故郷に帰れるのだろう。
それでも凝珠の前では笑うようにした。辛気臭いのは嫌いだ。事実、私は恵まれた状況だった。ここは封建制度が確立した世界だ。奴婢の扱いは主人によって異なるのが当然で、宇文府には大勢の奴婢がいた。私のように朝寝などできもせず、日が上る前から起きて働く彼らに気後れした。洗濯も掃除も厠の汲み取りも全て手作業だ。分かってはいたが、実感してからはなおさら落ち着かなかった。服を着ること、火口を扱うこと、部屋の雑巾かけやお茶の入れ方はすぐ覚え、合間に凝珠に思い付くことを片っ端から聞いた。
この間、凝珠以外の人にも会った。私を部屋に連れ戻してくれた壮年の男性は柳総菅といい、屋敷の管理を受け持っているという。役目に相応しく物に動じぬ三十代後半の、にこりともしない人で、静かに私の様子を見ていたが、ただ見下すことも、好奇心を持つこともなく、落ち着いて私の説明を聞いたあと、大夫を手配すると言って、廊下でしばらく凝珠と立ち話をしたあと去っていった。部屋に戻った凝珠は眉を潜めていたが、緊張の色はなかった。恐らく、彼は信用できる人間なのだろう。その後もちょくちょく二人で話しているのを見たので、からかうつもりで夫婦なのかと聞いたら、何と本当にそうだった。人とはわからない。感情の淡白な人に見えたのに、活気の有る凝珠と夫婦なのが不思議だった。けれど意志が通じているようだから、仲は悪くないのだろう。
大夫の診断は受けたが、予想通りというか、脈を見て眼を覗かれた後、質問をされてから、安静にして時間を置くようにと言われただけだった。凝珠は腹をたてたようで、鍼を打ってほしいと頼んだので、五十過ぎの大夫は肩に血行を良くすると言って鍼を打って帰ったが、顔の血色が確かに多少良くなった位だった。
最初の日、混乱した頭で連想したのは宇文の姓を持つ南北朝の北周だったが、この場所は北周ではなかった。いや、そもそも、私が知っているどの歴史にも無い国だった。
私は文字通り異世界に迷いこんだのだ。
この世界は五州と呼ばれていた。州が五つ有るのではなく、天熬、無極、扶風、旋機、蒼穹、軒轅、そして私がいる太渊の七か国に別れている。彼女は私の為に紙に書いて説明してくれたが、どれ一つ私には馴染みがなかった。歴史にこんな国々はない。軒轅?上古の大帝の姓?私は伝説の中にいるのだろうか?

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