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2019年12月21日土曜日

「扶揺」二次小説 情未央(じょうびおう)12

(画像出典https://images.app.goo.gl/6B4VMP7JFHqz7FDy7 )
「なんですって?婚約?」私は仰天した。宇文怜の部屋は年頃の娘にしては落ち着いた色合いで揃えられていて、衣服もさすがに上質な布地で刺繍が施されているものの、男の影が有るようには見えなかったのだ。
「その…婚約、もう決まっているの?」
「まだ、はっきりしたお話は何も。ただ、一月近く前に夫人がお嬢様を呼び出され、婚約の事をお話になったのです。もうとっくに嫁ぐ年なのだから、そのつもりで身の回りに気を付けるようにと…」
宇文府が名門で、なおかつ官僚ならば、政略結婚だろうか。大いにあり得る。これが封建社会の慣わしだ…女性は生活を保証される為には結婚が不可欠なのだ。
震えをこらえた私を誤解したのか、凝珠が慌てて付け加えた。
「ご心配なく、お嬢様は浮いた話など一度もございません。年の釣り合うような貴公子の方々とは、めったに顔も合わせられませんでした。夫人も無理にお嬢様を表の場に出そうとはされませんでしたし。」
どうやら、宇文怜に隠れた恋人などは居そうもない。私はほっとした。恋人から見れば、宇文怜と私の違いがはっきりする。騙すことは嫌だった。
その時、襖の外から若い侍女の呼び声がしたので、凝珠は一言断って出ていった。
その夜、夕食を終えた後、私は昼間の話を持ち出した。
「つまり、凝珠は、私が結婚が怖いので気鬱のあまり記憶を失ったと?」
彼女は吃驚して私を見つめ、眼差しは複雑だった。けれど昼間からの間に心を決めたらしく、しばらく黙った後に静かに話し出した。
曰く…
宇文府の当代の主は、三十年近く前に私の母である彩花夫人を娶った。彼女は泉都の古くからの名門で、この何十年かは高官を輩出してはいないものの、身内から実直な文官を出すことで有名だった。彩花夫人も学識に富んだ、穏やかな人柄だったが、二十歳で嫁いでから六年間、子供が出来なかった。
現当主は妻に誠実だったが、婚姻前に親しかった女性がいた。跡継ぎを危惧した当主の母、老夫人は、当主に強く薦めてその女性、琅香を第二夫人に迎えた。結果、一年後にすぐ琅香夫人は若君を生み、名実共に宇文府での立場を確立した。
長男の誕生から二年後、彩花夫人は娘を生んだ。跡継ぎの後の女児に、屋敷中が喜びにわいたが、母である彩花夫人は健康な赤子にこれ以上ないほど喜んだという。子供は、年を重ねても変わらぬ聡明さと明朗さへの願いを込めて、怜と名付けられた。

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