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2019年12月24日火曜日

「扶揺」二次小説 情未央(じょうびおう)4 誰の意識か

一章 太渊篇 誰の意識か
(画像出典https://images.app.goo.gl/jUaJGnfsVeurBzXi8 )
気付いたときには、最初にいた部屋に座っていた。あまり覚えていないが、池の畔(ほとり)に座り込んでいた私の肩に誰かがそっと触れたこと、見上げた顔は逆光で見えづらかったが、壮年の男であること。彼は私がどうみても正気でないのに気付いたらしく、余計なことを一切言わずに二人の女性を呼んで私を両側から支えさせ、部屋に戻らせた。
名前も知らない、だが有能らしい彼のお陰で、気付けば肩に上着らしきものが掛けられ、手には温かい、それでも火傷する熱さでない湯飲みを持たされていた。そのせいか、私は目を開けたままの痴呆状態から意識を取り戻した。相変わらず、頭の半分は動いていない気がするが。
視線を巡らすと、さっきの女性が目に入った。小さな茶卓の傍に座った私の斜め前にひざまずき、僅かに此方を見上げている。その視線に、怒りや薄気味の悪さを探したが、見当たらなかった。彼女の眼に見てとれたのは、心配と不安だった。まるで見知らぬ人間だと言うのに、その表情に少し慰められて、私は口を開く気になった。少なくとも、敵意ではない。
「あの…立って下さい。落ち着かないの」
私が意識を戻すまで、まさかずっとひざまずいていたのだろうか。両手をきちんと前で揃えている所を見ると、礼儀作法の一環の様だったが、奇妙で居たたまれなかった。
「お嬢様…侍女にそのような口をきかれないで下さい。夫人が聞かれたら、私たちが罰を受けます」くっきりとした眉を不安げにひそめている。まじまじとその顔を見つめた。三十代前半、丸顔だが腮(えら)が張り、頬に赤みが差している。小ぶりな口と黒々とした瞳。印象として、人を騙す性格には見えなかった。
侍女?
今時、どういう人権感覚だろう。好き好んでこんな自称を使うとしたら、時代劇気取りの馬鹿か、よっぽどの権力者が自宅で封建時代ごっこをやらせているかだ。どちらにせよ、まともな話ではない。
「あなた…名前は?」
「凝珠(にんじゅ)です、お嬢様…」快活そうな顔が悲しみと恐れに歪んだ。
「お嬢様、本当に覚えてらっしゃらないのですか…夜にお休みになった時には、いつも通りのお嬢様でしたのに…私が下がってから、何かあったのですか?」
それは私が知りたい。けれど、担がれているという疑いも、この人の顔を見ていると口に出せなかった。私は世間知らずな方だが、人の本気か嘘かを分からないほど鈍くはない。問題は、この言葉が本当の場合、この夢も本当になってしまうことだ。
「あなたは凝珠、私は…宇文…?」呟いた瞬間、頭を殴られたように衝撃が走った。
穿越(タイムスリップ)?
あり得ない。
目覚めてから今までの出来事が、一気に押し寄せた。
古風な室内、開発されていない未開の平野、奇妙な衣服、芝居がかった言葉遣い。
嘘よ。これはドラマではない。現実だ。この広大な国には、今でも古装劇のロケが出来る未開発の平野など幾らでもある。私は誘拐されたのだ。
なら、この髪の毛は?いつ、こんなに伸びたの?記憶がない。覚えがないのだ。

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